▼過去の研究会・シンポジウム
2015年
2014年
2013年
2012年
 
2012年
 
 
企画シンポジウム:「在日コリアンの現在と未来」
2012年11月27日
 
 
シンポジウム「在日コリアンの現在と未来」開催の趣旨

在日コリアンはすでに100年程度の歴史を持っている。周知のようにその社会集団としての歴史的形成の背景には植民地支配のなかの朝鮮農民の経済的没落と日本本国の低賃金労働力の需要という状況があり、移動それ自体も決して自由ではなかったことがある。また、戦時体制のもとでは、朝鮮人は直接的動員を含めて日本の戦争に協力させられるとともに民族文化に対する徹底的な抑圧を加えられた。
朝鮮の独立解放を迎えた1945年8月以降も在日コリアンは様々な苦難を強いられた。祖国の分断、イデオロギー対立の中での在日コリアン社会自体の分裂と祖国との紐帯維持の困難さ、東アジアの複雑な国際関係と戦後処理の不十分さといった問題は、単なるある一つの国家に存在する民族的少数者の直面する諸権利の問題といった以上に、在日コリアンの直面する課題を容易に解決しがたいものとしてきた。また、そのことは在日コリアン、とりわけ若い世代の人びとにアイデンティティや国籍をめぐる苦悩を与えてきた。
しかしそうしたなかでも在日コリアンのなかには、困難を乗り越えて自身の才能を開花させ、日本社会、本国社会に多大な貢献をしてきた人びとが少なくない。権威ある賞をとった作家、芸術家、研究者、第一線で活躍しているスポーツ選手、芸能関係者、大企業の経営者等のなかに在日コリアンの名前を見出すことは珍しくない。そしてもちろん、そのような著名な人びとだけでなく、市井のなかで庶民として生活しながら、地域レベルの日本の経済や社会において、あるいは本国の人びとに対して何らかの意味で寄与・貢献を果たしてきた在日コリアンは多い。その意味で日本社会・本国社会は、その歴史において在日コリアンの存在を無視するわけにはいかないし、今後、ますます在日コリアンが活躍できるような環境を整えるために意を払うべきであろう。
では、在日コリアンが自己実現を図り、自身の周囲にいる、ないしつながりを持とうとしている人びとの良好な関係を成立させる状況は存在しているのだろうか。あるいはそれがつくられつつあるのだろうか? これまでの在日コリアンの歴史を長期的に振り返って考えるならば、おそらく1990年代以降、この点にかかわって、新たな条件が加わっていると見ることができる。例えば、多文化主義に対する理解の一定の浸透、それを受けた行政の施策やNGOの活動の展開、情報通信手段の発達による祖国と在日コリアンの疎隔のある程度の解消(ないしその可能性の拡大)、韓国の民主化の進展、日本における韓国文化への関心や理解の一定の高まり、日本人と韓国人との間での様々な分野での交流の深まりなどである。これらの条件は在日コリアンが抱えていた課題の少なくともいくつかの解決に向けてプラスの影響を果たすであろうものであろう。
だが、言うまでもなく、現状はそう楽観的になれるようなものではない。近年の日本では、露骨な民族差別や韓国に対する反感を示す集団の活動も目立っているし、歴史認識をめぐる問題についても改善の方向に向かっているとは言いがたい状況がある。若い世代の在日コリアンで文化やアイデンティティ、国籍をめぐる悩みに直面している人びとに対して、自由で多様な選択肢が準備されているとも考えられないのが実情である。

外村大(東京大学大学院総合文化研究科)

日時場所

・日時:2012年11月27日(火) 13:00~18:00
・会場:東京大学駒場キャンパス18号館ホール
・主催:東京大学大学院情報学環現代韓国研究センター
・後援:東北亜歴史財団

プログラム

■12:30 開場

■13:00 開会の挨拶
金容琥(東北亜歴史財団政策企画室長)
木宮正史(東京大学現代韓国研究センター副センター長・駒場支所長)

■13:15 基調講演
田中宏(一橋大学・名誉教授)「在日コリアンの権利運動と課題」

■14:10 シンポジウム
第1部 「地域社会の中の在日コリアン」
司会 園田茂人(東京大学)
報告者 1 徐阿貴(お茶の水女子大学・研究員)
「地域での在日コリアン高齢者の識字運動と日本人住民との関係」
2 柳赫秀(横浜国立大学・教授)
「ニューカマーコリアンと在日コリアンとの関係」
討論者 三ツ井崇(東京大学・准教授)
金顯哲(東北亜歴史財団研究委員)

第2部 「グローバル化と在日コリアン」  
司会 木宮正史(東京大学)
報告者 1 朴正鎮(ソウル大学・研究教授)
「東京都のグローバル戦略と在日朝鮮人施策」
2 玄武岩(北海道大学・准教授)
「在外コリアンネットワーク:南北朝鮮の統一と在日コリアンの役割」
討論者 木宮正史(東京大学・教授)
李鍾国(東北亜歴史財団研究委員)